肛門が痛い・腫れている…それ「肛門周囲膿瘍」かも|受診の目安と当日対応
肛門の痛みや腫れ、それは「肛門周囲膿瘍」かもしれません

肛門が急に痛くなった。
触ると腫れているような気がする・・・そんな症状で不安を感じていませんか?
肛門周囲の痛みや腫れは、「肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)」という病気の可能性があります。この病気は肛門の周りに膿(うみ)がたまる状態で、放置すると慢性化して「痔瘻(じろう)」に進行することもあるため、早めの対応が大切です。
今回は、肛門周囲膿瘍の症状や原因、受診すべきタイミング、そして当日の診察の流れまで、消化器内科・肛門科の専門医の視点から詳しく解説します。
肛門周囲膿瘍とは?どんな病気なのか
肛門周囲膿瘍は、肛門のまわりに膿がたまる病気です。
肛門と直腸の接合部には「歯状線」と呼ばれる境界があり、そこには小さなくぼみ(肛門陰窩)が存在します。このくぼみに便が入り込み、細菌感染が起こると、肛門腺という組織に炎症が広がります。炎症が進むと、肛門周囲の皮下組織にまで膿がたまり、肛門周囲膿瘍となります。

肛門周囲膿瘍は、誰にでも発症する可能性があります。特に男性に多く見られる傾向があり、30~40歳代に多く発症します。
この病気の特徴は、初期段階では「肛門周囲膿瘍」と呼ばれますが、適切な治療を受けずに放置すると、慢性化して「痔瘻」に進行する点です。痔瘻になると、膿の通り道(瘻管)が形成され、治療がより複雑になります。さらに長期間放置すると、まれにがん化する可能性もあるため、早期の治療が重要です。
肛門周囲膿瘍の症状|こんな症状があれば要注意
肛門周囲膿瘍の症状は、膿がたまる場所によって異なります。
浅い場所にできた場合の症状
皮膚に近い浅い場所に膿がたまると、以下のような症状が現れます。
- 激しい痛み・・・椅子に座れないほど強い痛みを感じることもあります
- 肛門周囲の腫れ・・・触ると硬く、膨らんでいるのがわかります
- 皮膚の発赤・・・肛門周辺の皮膚が赤く腫れます
- 熱感・・・患部に熱を持ちます
浅い場所の膿瘍は、目で見て赤みや腫れを確認でき、指で触って膨らみや痛みを感じることで診断できます。
深い場所にできた場合の症状
深部に膿がたまる場合は、症状が分かりにくいことがあります。
- 腰の鈍い痛み・・・肛門周囲ではなく、腰に痛みを感じることがあります
- 微熱とだるさ・・・38℃以上の高熱が出ることもあります
- 違和感・・・はっきりとした痛みではなく、違和感程度のこともあります
深部の膿瘍は手で触れにくいため、発見が遅れてしまうこともあります。発熱の程度は、微熱から高熱まで個人差があります。
その他の症状
膿が自然に破れて排出されると、一時的に症状が軽快することがあります。しかし、これは根本的な治療ではなく、再発や痔瘻への進行のリスクが残ります。
また、下着に膿がつく、肛門周囲にしこりを触れるといった症状も見られることがあります。
肛門周囲膿瘍の原因|なぜ発症するのか
肛門周囲膿瘍は、いくつかの要因が重なって発症します。
くぼみから細菌が侵入する
最も多い原因は、肛門のくぼみ(肛門陰窩)から細菌が侵入することです。
下痢便や軟便が頻繁にある場合、くぼみに便が入り込みやすくなります。また、温水便座の使用時にも、水圧によって便がくぼみに押し込まれることがあります。排便時に粘膜に傷がつくことも、感染のきっかけとなります。
体の抵抗力が弱まっている
健康な状態であれば、くぼみに便が入り込んでも感染は起こりにくいです。
しかし、体の抵抗力が弱まっていると、細菌感染が起こりやすくなります。疲労やストレスが溜まっている時、睡眠不足の時などは注意が必要です。また、多量の飲酒も肛門周囲膿瘍を引き起こしやすい要因とされています。
その他の原因
上記以外にも、以下のような原因で発症することがあります。
- 切れ痔(裂肛)・・・切れ痔から細菌感染が広がることがあります
- クローン病・・・腸の粘膜に異常を引き起こす病気で、肛門周囲膿瘍を合併しやすいです
- 結核、HIV感染・・・免疫力が低下する病気では発症リスクが高まります
- 膿皮症・・・皮膚の病気が原因となることもあります
- 異物・・・魚の骨などが刺さって感染を起こすこともあります
飲酒、温水便座の使用、下痢や軟便、抵抗力が弱っている状態のときに発症しやすい病気です。
受診の目安|いつ病院に行くべきか
肛門周囲膿瘍が疑われる場合、早めの受診が大切です。
すぐに受診すべき症状
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く肛門科や肛門外科を受診してください。
- 激しい痛み・・・座ることも辛いほどの強い痛みがある
- 肛門周囲の腫れ・・・明らかに腫れている、硬いしこりを触れる
- 発熱・・・38℃以上の発熱がある
- 皮膚の発赤・・・肛門周辺の皮膚が赤く腫れている
これらの症状は、肛門周囲膿瘍の典型的なサインです。放置すると症状が悪化し、痔瘻に進行する可能性があります。

自然に膿が出た場合も受診を
膿が自然に破れて出た場合、一時的に痛みや腫れが引くことがあります。
しかし、これで治ったわけではありません。排膿が不十分な場合、再び膿がたまる可能性があります。また、痔瘻に進行するリスクも残ります。自然に膿が出て症状が落ち着いた場合でも、肛門科の専門医を受診することを強くおすすめします。
痔瘻に進行した場合の症状
痔瘻に進行すると、以下のような症状が現れます。
- 分泌物・・・肛門周囲から膿や分泌物が出る
- 下着の汚れ・・・下着に膿がつく
- かゆみ・・・肛門周辺の皮膚にかゆみを感じる
- しこり・・・肛門周囲にしこりを触れる
痔瘻は炎症が治まっていれば痛みがないため、受診を控えてしまう方もいます。しかし、放置すると膿の出口が塞がって肛門周囲膿瘍が再発したり、瘻管が複雑化してより治療が難しくなったりします。さらに長期にわたって放置すると、がんを合併する例もあるため、気になる症状がある場合にはなるべく早く受診することが大切です。
肛門周囲膿瘍の診断と治療|当日の流れ
肛門周囲膿瘍の診断と治療について、当日の流れを説明します。
診断方法
浅い場所の肛門周囲膿瘍は、視診と触診で診断できます。
目で見て発赤や腫脹を確認し、指で触って膨らみや痛みを知ることで診断します。深い場所にある場合は、目で見てもわからないことが多く、指で触って診断しますが、慣れない医師はしばしば見逃してしまうこともあります。
必要に応じて、超音波検査やCT検査、MRI検査で診断がつく場合もあります。肛門が痛くて発熱がある場合には、専門施設の受診をおすすめします。
治療方法|切開・排膿が基本
肛門周囲膿瘍の治療の基本は、切開して膿を排出することです。
診断がつけば、基礎疾患や抗血栓薬の使用の有無にかかわらず、速やかに切開・排膿を行います。膿瘍が浅い場所にあれば局所麻酔下で切開しますが、深いものは腰椎麻酔下などで行います。
小さな膿のたまりの時は麻酔なしか、局所麻酔を用いて治療をします。それ以上の大きなものは激痛を伴うため、十分な麻酔が必要です。
抗生物質による治療は非推奨
軽度の場合は抗生物質を服用して細菌感染を抑える治療が行われることもあります。
しかし、抗生物質単独では、膿の根本的な原因であるくぼみの詰まりを解消することはできません。飲み薬では一時的に感染をおさえることができますが、感染を繰り返す可能性が高いです。そのため、くぼみを切開し、膿を出すことが勧められます。
皮下に広範囲に広がったものや全身的な合併症をもつ場合、切開だけでは症状の改善が長引くと予想される場合には抗菌薬を投与します。

治療後の経過
切開・排膿後は、症状が軽快します。
ただし、肛門周囲膿瘍の切開排膿後に痔瘻への移行率は30数%程度とされています。手術後も肛門周囲膿瘍の再発や手術で切開した創から痔瘻に発展することがあるので、外来で定期的に経過観察を受けることが大切です。
出典日本臨床肛門病学会「痔瘻(じろう,あな痔)ってなに?肛門周囲膿瘍ってなに?」より作成
痔瘻に進行した場合の治療
痔瘻の自然治癒はまれで、基本的には手術が行われます。
痔瘻の治療でも手術が行われますが、肛門周囲膿瘍とは異なり、痔瘻の位置や肛門の機能温存などを考慮していくつかの手術法から適切なものが選択されます。
主な手術法
- 痔管開放術・・・痔管を切り開く方法
- 痔管切除術・・・痔管のある部分をくり抜く方法
- シートン法(瘻管結紮療法)・・・痔管の中にアラビアゴムや薬剤を浸した糸を通して結び、少しずつ痔管を切り離していく方法
- 括約筋温存手術・・・括約筋の機能を温存する方法
手術によって機能障害をきたす可能性のある複雑痔瘻については、専門施設での治療をおすすめします。
8割くらいは低位筋間痔瘻といわれる肛門周囲の浅いところを通る管ですが、坐骨直腸窩痔瘻という複雑なものもあります。
肛門周囲膿瘍の予防法|日常生活で気をつけること
肛門周囲膿瘍は、日常生活の工夫で予防できる可能性があります。
下痢を予防する
下痢しないようにすることが予防になります。
ただし、実際にはなかなか難しいものです。暴飲暴食を避け、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
温水便座の使用に注意
温水便座の使用時に、水圧によって便がくぼみに押し込まれることがあります。
水圧を強くしすぎないよう注意しましょう。
便通を整える
便秘や下痢を繰り返すと、肛門に負担がかかります。
食物繊維を適度に摂取し、水分補給を心がけることで、便通を整えることができます。
過度な飲酒を控える
多量の飲酒は肛門周囲膿瘍を引き起こしやすい要因です。
適度な飲酒量を守り、休肝日を設けることも大切です。
体の抵抗力を保つ
疲労やストレスを溜めず、十分な睡眠をとることで、体の抵抗力を保つことができます。
規則正しい生活習慣を心がけましょう。
まとめ|早めの受診が大切です
肛門周囲膿瘍は、肛門のまわりに膿がたまる病気です。
激しい痛み、腫れ、発熱などの症状が現れたら、早めに肛門科や肛門外科を受診してください。放置すると痔瘻に進行し、治療がより複雑になる可能性があります。
治療の基本は切開・排膿で、抗生物質だけでは根本的な治療にはなりません。自然に膿が出て症状が落ち着いた場合でも、専門医を受診することが大切です。
肛門周囲の痛みや腫れでお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。当院では、完全個室の診察室を完備し、患者様のプライバシーを考慮した対応を行っています。女性医師も常駐していますので、安心してご来院いただけます。
詳しい診療内容や予約方法については、大阪消化器内科内視鏡クリニックの公式サイトをご覧ください。
著者情報
理事長 石川 嶺

経歴
| 近畿大学医学部医学科卒業 |
| 和歌山県立医科大学臨床研修センター |
| 名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科 |
| 近畿大学病院 消化器内科医局 |
| 石川消化器内科内視鏡クリニック開院 |

