内視鏡検査前の飲食制限〜正確な検査結果のために
内視鏡検査とは?検査の種類と目的
内視鏡検査は、消化器系の健康状態を詳しく観察し、病気の早期発見・治療につなげるために欠かせない検査です。細い管状の医療機器である内視鏡を用いて、消化管内部を直接観察します。
消化器内科医として長年診療に携わってきた経験から言えることは、内視鏡検査は「辛い・苦しい」というイメージをお持ちの方が多いということです。しかし、近年の医療技術の進歩により、患者さんの負担を大幅に軽減できるようになりました。
内視鏡検査には主に「上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)」と「下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)」の2種類があります。胃カメラは食道・胃・十二指腸を、大腸カメラは大腸全体を観察する検査です。
これらの検査では、炎症、潰瘍、ポリープ、早期がんなどを見つけることができます。また、必要に応じて組織を採取(生検)したり、ポリープを切除したりすることも可能です。
どうですか?内視鏡検査に対する不安が少し和らぎましたか?
検査の精度を高め、安全に行うためには、検査前の適切な準備が極めて重要です。特に飲食制限は、検査結果の精度に直結する重要な要素なのです。
なぜ内視鏡検査前に飲食制限が必要なのか?
「なぜ検査前に食事を制限されるのか」と疑問に思われる方も多いでしょう。これには明確な医学的理由があります。
内視鏡検査では、消化管内部をクリアに観察する必要があります。胃や腸の中に食べ物や飲み物が残っていると、次の2つの大きな問題が生じます。
- 視界不良による病変の見落とし:残渣が病変を覆い隠してしまい、がんなどの重要な病変を見逃す可能性が高まります
- 誤嚥リスクの増加:胃内に食物が残っていると、検査中に内容物が気道に入る危険性(誤嚥)が高まります
私が経験した実例をお話しします。ある50代の男性患者さんは、検査前の食事制限を守らずに来院されました。胃カメラ検査を行ったところ、胃内に食物残渣が多量に残っており、十分な観察ができませんでした。
再検査をお願いし、適切な食事制限を守っていただいた結果、前回は見えなかった胃の一部に早期胃がんが発見されたのです。このように、飲食制限は単なる形式ではなく、あなたの命を守るために必要不可欠なものなのです。
検査前の飲食制限は、検査の種類によって異なります。胃カメラと大腸カメラでは準備方法が大きく異なるため、それぞれの制限について詳しく解説していきましょう。
胃カメラ検査前の飲食制限
胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)を受ける際の飲食制限について、時系列に沿って詳しく説明します。
検査3日前からの食事の注意点
検査の3日前から、消化に良い食事を心がけましょう。これにより、胃内の状態が整い、より良い検査環境を作ることができます。
- 積極的に摂取したい食材:白米、おかゆ、うどん、そうめん、絹ごし豆腐、バナナ、無脂肪ヨーグルトなど
- 控えるべき食材:脂っこい肉類、揚げ物、ラーメン、野菜炒め、きのこ、海藻類、豆類、キウイ、イチゴ、パイナップルなど
この時期から胃に優しい食事を心がけることで、検査当日の胃の状態が格段に良くなります。私の臨床経験では、この準備期間をしっかり守った患者さんは、検査がスムーズに進むことが多いです。
検査前日の食事制限
検査前日は特に重要です。以下のルールを必ず守りましょう。
- 夕食は必ず21時までに終えること
- 21時以降は絶食(ただし透明な飲み物は可)
- 水分は積極的に摂取するが、濃い色の飲料は禁止
前日の夕食におすすめのメニューは、白がゆや具なしうどんなど、消化に良く胃に負担をかけない食事です。腹八分目を目安に、満腹になるまで食べないことも大切です。
許可されている飲み物は、水や無糖のお茶(麦茶、ほうじ茶など色の薄いもの)です。一方、コーヒー、紅茶、牛乳、乳飲料、ジュース類は禁止されています。
特にコーヒーや紅茶は、たとえ無糖でも色素が胃の粘膜に付着して観察を妨げるため、必ず避けてください。
検査当日の飲食制限
検査当日は、絶対に食事を摂らないでください。許可されているのは、透明な水分のみです。
朝起きたら、水か無糖のお茶を少量だけ口に含む程度にしておきましょう。大量に水を飲むと検査中に胃液が逆流するリスクが高まるため注意が必要です。
もし朝に常用している薬がある場合は、かかりつけ医や検査を担当する医師に事前に相談してください。多くの場合、少量の水で内服することが可能です。
内視鏡検査を長年行ってきた私の経験から言えることは、この飲食制限をしっかり守ることで、検査の質が格段に向上し、重要な病変の発見率が高まるということです。あなたの健康のために、ぜひ守っていただきたいと思います。
大腸カメラ検査前の飲食制限
大腸カメラ検査(下部消化管内視鏡検査)は、胃カメラ検査とは異なる準備が必要です。大腸内をきれいにするためには、より厳密な食事制限と腸管洗浄が必要になります。
検査3日前からの食事制限
大腸カメラ検査の3日前から、腸内に残渣が残りやすい食物の摂取を控えましょう。具体的には以下の食品です。
- 食物繊維の多い野菜(ごぼう、れんこん、きのこ類など)
- 海藻類(わかめ、こんぶ、ひじきなど)
- 豆類(納豆、小豆、大豆製品など)
- 種の多い果物(キウイ、イチゴ、スイカなど)
- 穀類の外皮(玄米、胚芽米など)
これらの食品は腸内に長く残りやすく、検査の視界を妨げる原因となります。代わりに白米、うどん、パン、豆腐、白身魚などの消化の良い食品を摂るようにしましょう。
私のクリニックでは、この時期から食事内容を工夫していただいた患者さんは、腸管洗浄の効果が高く、検査がスムーズに進むことが多いです。
検査前日の食事制限
検査前日の食事はさらに重要です。朝食と昼食は消化の良いものを少量摂取できますが、夕食は特別な配慮が必要です。
多くの医療機関では、検査前日の夕食として「消化の良い流動食」を指示しています。具体的には以下のようなメニューが推奨されます。
- おかゆやうどんなどの消化の良い炭水化物
- 脂肪分の少ないスープ
- ゼリーやプリン(着色料の少ないもの)
夕食は18時までに済ませ、その後は絶食となります。ただし、水分(水、お茶、スポーツドリンクなど)は積極的に摂取してください。十分な水分摂取は、翌日の腸管洗浄をスムーズに行うために不可欠です。
あるとき、検査前日の食事制限を守らなかった患者さんがいました。翌日の検査では腸内に多量の残渣が残っており、十分な観察ができませんでした。再検査をお願いし、適切な食事制限を守っていただいた結果、前回は見えなかった大腸ポリープが発見されたのです。
検査当日の腸管洗浄
大腸カメラ検査当日は、腸管洗浄剤を服用します。これは大腸内をきれいに洗い流すための重要なステップです。
一般的な流れとしては、検査当日の朝に来院し、約1,000~2,000mlの腸管洗浄剤を約2時間かけて内服します。洗浄剤を飲むと数回の排便があり、最終的には透明な水様便が出るようになります。
腸管洗浄剤の飲み方には、以下のコツがあります。
- 冷やして飲むと飲みやすくなります
- 一気に飲まず、指示された時間内に少しずつ飲みましょう
- 飲んだ後は軽く体を動かすと、腸の動きが促進されます
時間通りに飲めなかったり、腸管洗浄に時間がかかってしまう場合には、浣腸をしたり下剤の変更・追加をする場合もあります。
適切な腸管洗浄ができていると、検査の質が格段に向上し、小さなポリープも見つけやすくなります。これは大腸がんの早期発見・早期治療につながる重要なポイントです。
内視鏡検査後の食事再開と注意点
検査が終わったあとの食事再開についても、いくつかの注意点があります。検査の種類や処置の有無によって異なりますので、詳しく解説します。
胃カメラ検査後の食事再開
胃カメラ検査後の食事再開は、検査時の状況によって異なります。
咽頭麻酔(のどの麻酔)を使用した場合は、誤嚥の危険性があるため特に注意が必要です。検査終了後約1時間が経過してから、少量の水分をゆっくりと飲み、むせないことを確認してから食事摂取が可能になります。
鎮静剤を使用した場合には、約1時間ベッドで安静にし、しっかりと覚醒してから食事摂取が可能になります。
生検(組織採取)を行った場合は、検査当日の刺激物やアルコール摂取を控えてください。胃の粘膜に小さな傷がついているため、刺激物を摂取すると出血のリスクが高まります。
検査後1日目からは通常の食事に戻れますが、2〜3日は消化の良いものを中心に、徐々に普段の食事に戻していくことをお勧めします。
大腸カメラ検査後の食事再開
大腸カメラ検査後の食事再開は、ポリープ切除などの処置を行ったかどうかで大きく異なります。
処置を行わなかった場合は、検査終了後すぐに食事を摂ることができます。ただし、腸管洗浄による腸内環境の変化があるため、最初は消化の良いものから始めるとよいでしょう。
ポリープ切除を行った場合は、約1週間は刺激物やアルコール摂取を控える必要があります。また、食物繊維の多い食品も控えめにし、腸に負担をかけないようにしましょう。
私がいつも患者さんにお伝えしているのは、「無理は禁物」ということです。検査後すぐに普段通りの食生活に戻そうとせず、体調を見ながら徐々に戻していくことが大切です。
検査後に気をつけるべき症状としては、強い腹痛、出血(吐血や下血)、発熱などがあります。これらの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
よくある質問と回答
内視鏡検査の飲食制限について、患者さんからよく質問される内容とその回答をまとめました。
検査前の食事制限について
Q: 検査前日の夜に少量のお菓子を食べてしまいました。検査はキャンセルすべきですか?
A: 少量であれば大きな問題にはならないことが多いですが、必ず医療機関に連絡して指示を仰いでください。内容や量によっては検査に影響する可能性があります。
Q: 常用している薬は検査当日も飲んでもよいですか?
A: 基本的には少量の水で服用可能ですが、血液をサラサラにする薬(抗血栓薬など)や糖尿病の薬は調整が必要な場合があります。必ず事前に医師に相談してください。
Q: 大腸カメラの前日、どうしても仕事の付き合いで食事会があります。どうすればよいですか?
A: 可能であれば検査日の変更をお勧めします。どうしても変更できない場合は、消化の良いものを少量摂取し、アルコールは避け、医療機関に事前に相談してください。
検査当日の注意点
Q: 胃カメラ検査当日、喉が渇いて水を多めに飲んでしまいました。問題ありますか?
A: 水は基本的に少量であれば問題ありませんが、大量に飲むと胃液が増え、検査中に逆流するリスクが高まります。心配な場合は医療機関に連絡してください。
Q: 大腸カメラの腸管洗浄剤を飲むのが苦手です。何かコツはありますか?
A: 冷やして飲む、レモン汁を少し加える、ストローで飲む、飲んだ後に口をすすぐなどの工夫が効果的です。どうしても飲めない場合は、医師に相談してください。
Q: 内視鏡検査は痛いですか?怖いのですが…
A: 現在は鎮静剤を使用した「楽な検査」が一般的です。多くの患者さんは「思ったより楽だった」と言われます。不安がある場合は、医師に遠慮なく相談してください。
検査後の生活について
Q: 検査後はすぐに運転して帰宅できますか?
A: 鎮静剤を使用した場合は、当日の運転は避けてください。公共交通機関の利用や家族の送迎をお勧めします。
Q: ポリープ切除後、いつから普通の食事に戻れますか?
A: 一般的には約1週間は刺激物を避け、その後徐々に普通の食事に戻します。ただし、切除したポリープの大きさや数によって異なりますので、医師の指示に従ってください。
内視鏡検査に関する不安や疑問は、遠慮なく医師や看護師に相談してください。あなたの不安を和らげ、最適な検査環境を整えるためのサポートをいたします。
まとめ:より良い検査結果のために
内視鏡検査前の飲食制限は、単なる形式的な手続きではなく、検査の質と安全性を高めるための重要なステップです。適切な準備により、病変の発見率が向上し、あなたの健康を守ることにつながります。
胃カメラ検査では、検査前日の夕食は21時までに済ませ、その後は絶食。検査当日は水以外の飲食を控えることが基本です。
大腸カメラ検査では、検査3日前から食物繊維の多い食品を控え、前日は消化の良い食事を18時までに済ませ、当日は腸管洗浄剤を適切に服用することが重要です。
検査後の食事再開も、検査内容や処置の有無によって異なりますので、医師の指示に従ってください。
内視鏡検査は、消化器疾患の早期発見・早期治療のために非常に重要な検査です。近年の技術進歩により、鎮静剤を用いた「楽な検査」が一般的になっています。
検査に対する不安や疑問があれば、遠慮なく医療機関に相談してください。私たち医療者は、患者さん一人ひとりに寄り添い、安心して検査を受けていただけるようサポートいたします。
あなたの健康を守るために、適切な準備と定期的な検査をお勧めします。正確な検査結果を得るための第一歩は、この飲食制限を守ることから始まります。
詳しい情報や内視鏡検査のご予約については、大阪消化器内科・内視鏡クリニック難波院までお気軽にお問い合わせください。鎮静剤を使用した苦痛の少ない内視鏡検査を提供しております。
著者情報
理事長 石川 嶺
経歴
近畿大学医学部医学科卒業 |
和歌山県立医科大学臨床研修センター |
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科 |
近畿大学病院 消化器内科医局 |
石川消化器内科内視鏡クリニック開院 |