胃カメラの鼻からの挿入感覚〜経鼻内視鏡の実際の感覚は?
胃カメラの鼻からの挿入感覚とは?経鼻内視鏡の基本
胃カメラというと、多くの方が「苦しい」「痛い」というイメージをお持ちではないでしょうか。特に口からの挿入では、のどの奥を刺激されることによる嘔吐反射が強く出て、検査中ずっと苦しい思いをされた方も少なくありません。
そこで近年注目されているのが、鼻から胃カメラを挿入する経鼻内視鏡検査です。正式には「経鼻上部消化管内視鏡検査」と呼ばれるこの検査方法は、従来の口からの挿入に比べて患者さんの負担を大きく軽減できる可能性があります。
私は消化器内科医として数多くの内視鏡検査を行ってきましたが、経鼻内視鏡の普及により「胃カメラは苦しい」というイメージが徐々に変わりつつあることを実感しています。
経鼻内視鏡と経口内視鏡の違い
経鼻内視鏡と経口内視鏡の最大の違いは、その名の通り挿入経路です。経口内視鏡は口から挿入するため、直径約9〜10mmのスコープを使用します。一方、経鼻内視鏡は鼻から挿入するため、より細い直径約5〜6mmのスコープを使用します。
この径の違いが、患者さんの感じる苦痛に大きく影響するのです。鼻から挿入する経鼻内視鏡は、舌の付け根や喉の奥に直接触れにくいため、嘔吐反射が起こりにくくなります。
当院では、オリンパス社製の最新型超極細内視鏡を使用しており、さらに細く改良されたスコープで検査を行っています。これにより、鼻腔への負担を最小限に抑えた検査が可能になりました。
また、経鼻内視鏡のもう一つの大きなメリットは、検査中に会話ができる点です。口からの挿入では喉にスコープが通っているため会話が困難ですが、鼻からの挿入では医師と会話しながら検査を受けられるため、不安感の軽減にもつながります。
ただし、経鼻内視鏡にもデメリットがあります。スコープが細いため、画質や処置具の操作性が経口内視鏡と比べるとやや劣る場合があります。また、鼻腔の構造によっては挿入が難しいケースもあります。
実際のところ、全体の約5〜10%の方が鼻腔が狭い・アレルギー性鼻炎がある・鼻の構造的な問題があるなどの理由で、経鼻挿入が困難とされています。そのような場合は、無理をせず経口での検査に切り替えることもあります。
経鼻内視鏡検査の実際の流れ
経鼻内視鏡検査は、どのような流れで行われるのでしょうか。当院での一般的な流れをご紹介します。
検査前の準備
検査当日は、基本的に6時間以上の絶食が必要です。水やお茶などの透明な飲み物は検査の2時間前まで少量であれば飲んでも構いません。
来院されたら、まず問診票に記入していただきます。持病や服用中のお薬、アレルギーの有無などを確認します。特に、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を服用されている方は、事前に主治医と相談が必要な場合があります。
また、検査の同意書にもサインをいただきます。不安なことや質問があれば、この時点でお気軽にお尋ねください。
鼻腔の麻酔と前処置
検査室に入ると、まず鼻腔の麻酔を行います。鼻の通りをよくするために、血管収縮剤を含んだスプレーを鼻の中に噴霧します。その後、表面麻酔薬を塗布して、鼻の中の感覚を一時的に鈍らせます。
麻酔が効くまで約10分ほど待ちます。この間、リラックスしていただくことが大切です。深呼吸をしたり、落ち着いた気持ちで過ごしていただくと、検査がスムーズに進みます。
また、胃の中の泡を除去するために、発泡剤を飲んでいただくこともあります。これは胃の中を観察しやすくするための前処置です。
内視鏡の挿入と検査
麻酔が効いたら、いよいよ内視鏡の挿入です。鼻の穴から細いスコープをゆっくりと挿入していきます。この時、「少し痛い」「つまる感じがする」という方もいらっしゃいますが、多くの場合は「違和感がある」程度で、我慢できないほどの痛みを感じる方は少ないです。
スコープが鼻腔を通過すると、次に咽頭(のどの奥)を通ります。この時、「何か通っている感じ」はありますが、口からの挿入と違って強い嘔吐反射が起こることは少ないです。
その後、食道、胃、十二指腸と順に観察していきます。検査中は横向きの姿勢で、リラックスして呼吸を続けることが大切です。必要に応じて、医師から「息を吸って」「息を止めて」などの指示があります。
検査時間は通常5〜10分程度です。病変が見つかった場合は、その場で組織検査(生検)を行うこともあります。
実際の挿入感覚はどうなのか?
経鼻内視鏡の挿入感覚は、実際にはどのようなものなのでしょうか。これは個人差が大きいのですが、多くの患者さんからいただく感想をもとにお伝えします。
鼻からの挿入時の感覚
鼻からスコープを挿入する際、最も気になるのは「痛み」ではないでしょうか。実際には、適切な麻酔を行えば、多くの方は「つまる感じ」や「違和感」を感じる程度です。
ただし、鼻腔の構造には個人差があり、鼻の通りが狭い方や鼻中隔湾曲がある方では、「ツンとする痛み」や「圧迫感」を感じることもあります。この場合、無理に挿入せず、もう片方の鼻孔を試すか、経口での検査に切り替えることもあります。
当院では、患者さんの不安や痛みを最小限に抑えるため、十分な時間をかけて丁寧に麻酔を行い、挿入時もゆっくりと慎重に進めています。「思ったより全然楽だった」というお声をよくいただきます。
のどを通過する時の感覚
経鼻内視鏡の最大のメリットは、のどを通過する際の嘔吐反射が少ないことです。口からの挿入では、のどの奥(咽頭)を刺激することで強い嘔吐反射が起こりやすいのですが、鼻からの挿入では直接的な刺激が少ないため、この不快感が大幅に軽減されます。
多くの患者さんは「のどに何か通っている感じはするけど、吐き気はほとんどない」と表現されます。また、検査中に会話ができるため、リラックスして検査を受けられるというメリットもあります。
検査中の感覚
スコープが食道、胃、十二指腸と進んでいく際は、「何かが動いている感じ」や「膨らむ感じ」を覚えることがあります。これは内視鏡で空気を送って胃を膨らませているためです。
不快に感じる方もいらっしゃいますが、多くの場合は我慢できる程度の違和感です。検査中にゲップが出ることもありますが、これは自然なことですので心配いりません。
検査中は横向きの姿勢でリラックスしていただくことが大切です。緊張すると体が硬くなり、かえって不快感が増すことがあります。深呼吸をしながら、できるだけリラックスした状態を保つようにしましょう。
経鼻内視鏡と鎮静剤(麻酔)の関係
胃カメラ検査では、鎮静剤(麻酔)を使用するケースもあります。鎮静剤とは、点滴で投与する軽い麻酔のようなお薬で、検査中の不安や苦痛を和らげる効果があります。
経鼻内視鏡と鎮静剤の使い分け
経鼻内視鏡は、その特性上、経口内視鏡に比べて苦痛が少ないため、多くの場合は鎮静剤なしで検査が可能です。これは経鼻内視鏡の大きなメリットの一つです。
鎮静剤を使用すると、検査後に眠気やふらつきが残るため、当日の車の運転ができなくなったり、仕事に支障が出たりする可能性があります。経鼻内視鏡であれば、鎮静剤なしでも比較的楽に検査を受けられるため、検査後すぐに日常生活に戻れるというメリットがあります。
ただし、強い不安や恐怖心がある方、過去に胃カメラで非常に苦しい思いをした方などには、経鼻内視鏡であっても鎮静剤の使用をお勧めすることがあります。
鎮静剤を使用するメリットとデメリット
鎮静剤を使用する最大のメリットは、検査中の苦痛や不安をほとんど感じないことです。多くの方は「気づいたら終わっていた」という感覚で検査を終えられます。
一方、デメリットとしては以下のようなものがあります:
- 検査後に眠気やふらつきが残る
- 車・バイク・自転車の運転ができない
- 検査後1時間程度は安静にする必要がある
- 重い心臓や呼吸器の病気がある方、睡眠時無呼吸症候群が重度の方などは使用に注意が必要
当院では、患者さんの状態や希望に応じて、鎮静剤の使用を検討しています。経鼻内視鏡であれば鎮静剤なしでも比較的楽に検査を受けられる方が多いですが、どうしても不安が強い場合は鎮静剤の使用も選択肢の一つとしてご相談ください。
経鼻内視鏡検査が向いている人・向いていない人
経鼻内視鏡は多くの方に適していますが、すべての方に最適というわけではありません。ここでは、経鼻内視鏡が特に向いている方と、あまり向いていない方についてご説明します。
経鼻内視鏡が向いている人
- 嘔吐反射が強い方:口からの内視鏡で強い嘔吐反射があった方は、経鼻内視鏡がおすすめです。
- 検査後すぐに活動したい方:鎮静剤を使わずに検査できるため、検査後すぐに運転や仕事に戻れます。
- 会話しながら検査を受けたい方:医師と会話しながら検査を受けられるため、不安感が軽減されます。
- 初めて胃カメラを受ける方:経口内視鏡の苦しさを経験せずに済むため、初めての方にもおすすめです。
経鼻内視鏡が向いていない人
- 鼻腔が狭い方:鼻中隔湾曲症など、鼻の構造に問題がある方は挿入が困難な場合があります。
- アレルギー性鼻炎が重度の方:鼻粘膜が腫れていると挿入が難しくなることがあります。
- 鼻の手術歴がある方:鼻の構造が変わっている可能性があるため、事前に相談が必要です。
- 鼻出血を起こしやすい方:稀に鼻出血を起こすことがあるため、出血傾向のある方は注意が必要です。
当院では、検査前に鼻腔の状態を確認し、経鼻内視鏡が可能かどうかを判断しています。もし経鼻内視鏡が難しいと判断された場合は、経口内視鏡や鎮静剤を使用した検査など、他の選択肢をご提案します。
経鼻内視鏡検査を楽に受けるコツ
経鼻内視鏡検査をより楽に受けるためのコツをいくつかご紹介します。これらを参考に、リラックスして検査に臨んでいただければと思います。
検査前の準備
- 十分な睡眠をとる:検査前日は十分な睡眠をとり、体調を整えましょう。
- リラックスする方法を考えておく:深呼吸や好きなことを考えるなど、自分なりのリラックス法を見つけておくと良いでしょう。
- 不安なことは事前に質問する:検査に対する不安や疑問は、事前に医師や看護師に相談しましょう。
- 鼻をかんでおく:検査直前に軽く鼻をかんで、鼻腔を清潔にしておくと良いでしょう。
検査中のポイント
- リラックスした姿勢を保つ:体の力を抜き、リラックスした状態を保つことが大切です。
- ゆっくりと鼻呼吸を続ける:口ではなく鼻で呼吸を続けると、スコープが入りやすくなります。
- 医師の指示に従う:「息を吸って」「飲み込んで」などの指示があれば、それに従いましょう。
- 不快感があれば伝える:我慢せずに、不快感や痛みがあれば手で合図するなどして伝えましょう。
多くの患者さんが「思ったより楽だった」と感じる経鼻内視鏡検査ですが、それでも不安を感じるのは自然なことです。当院では、患者さん一人ひとりの不安や疑問に丁寧に対応し、できるだけ快適に検査を受けていただけるよう努めています。
まとめ:経鼻内視鏡検査の実際
経鼻内視鏡検査は、従来の口からの胃カメラ検査に比べて、嘔吐反射が少なく、比較的楽に受けられる検査方法です。鼻からの挿入時に多少の違和感はありますが、適切な麻酔と丁寧な手技により、多くの方が「思ったより楽だった」と感じられています。
経鼻内視鏡の主なメリットは以下の通りです:
- 嘔吐反射が少なく、苦しさが軽減される
- 検査中に会話ができる
- 鎮静剤なしでも比較的楽に検査を受けられる
- 検査後すぐに日常生活に戻れる
一方で、鼻腔が狭い方やアレルギー性鼻炎が重度の方など、経鼻内視鏡が向いていない場合もあります。そのような場合は、経口内視鏡や鎮静剤を使用した検査など、他の選択肢を検討することも大切です。
胃カメラ検査は、食道がん、胃がん、十二指腸がんなどの早期発見に非常に重要な検査です。「苦しそう」というイメージから検査を避けていた方も、経鼻内視鏡であれば比較的楽に受けられる可能性があります。
当院では、日本内視鏡学会認定の内視鏡専門医が、最新の内視鏡システムを用いて丁寧に検査を行っています。胃カメラ検査に不安をお持ちの方も、ぜひ一度ご相談ください。患者さんの状態や希望に合わせて、最適な検査方法をご提案いたします。
健康維持のためにも、定期的な胃カメラ検査をお勧めします。特に50歳以上の方や、胃の不調を感じる方は、早めの検査をご検討ください。
詳しい情報や予約については、大阪消化器内科・内視鏡クリニック難波院までお気軽にお問い合わせください。
著者情報
理事長 石川 嶺
経歴
近畿大学医学部医学科卒業 |
和歌山県立医科大学臨床研修センター |
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科 |
近畿大学病院 消化器内科医局 |
石川消化器内科内視鏡クリニック開院 |