痔は自然治癒する?医師が教える正しい対処法と治療
肛門の不快な症状に悩まされたことはありませんか?多くの方が経験する「痔」の症状。「このまま放っておいても治るのだろうか」と不安に思われる方も少なくないでしょう。
実は痔は国民病とも言われるほど多くの方が悩まされている疾患です。成人の3人に1人は痔を持っているとも言われています。さらに妊婦さんの約85%は痔を発症するというデータもあるほど、日常的に多くの方が悩む症状なのです。
この記事では、痔の自然治癒の可能性や適切な対処法、治療方法について医学的な観点から詳しく解説します。痔の症状でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
痔とは?種類と症状について
痔とは、肛門に関するさまざまな病気を総称する言葉です。肛門周囲に出血や痛み、膿が溜まるなどの症状が現れることが特徴的です。
痔は大きく分けて「いぼ痔」「切れ痔」「痔ろう」の3種類に分類されます。それぞれ原因や症状が異なるため、適切な治療法も変わってきます。
肛門の病気の約75%が痔と呼ばれる良性の疾患で、その内訳は痔核(いぼ痔)が約60%、裂肛(切れ痔)が約15%、痔瘻(痔ろう)が約10%程度と言われています。男女比では、男女ともに痔核が最も多く、次に多いのは男性では痔瘻、女性は裂肛となっています。
いぼ痔(痔核)の特徴
いぼ痔は、肛門周囲にいぼができる症状で、さらに外にできるものを「外痔核」、内側にできるものを「内痔核」と呼びます。
肛門には「括約筋」と呼ばれる筋肉があり、ガスや便が漏れ出ないように働いています。この括約筋を助けているのが、肛門の粘膜の下にある「肛門クッション」と呼ばれる組織です。
肛門括約筋が過剰に働いたり、便秘や下痢などで長期間肛門クッションに負担がかかったりすると、血行不良を招き、肛門周辺の血管がうっ血して腫れてしまうことがあります。これがいぼ痔(内痔核)の正体です。
内痔核は進行すると出血したり、痔核が肛門の外に出てきたりします。内痔核はⅠ度~Ⅳ度までの4段階に分かれます。
- Ⅰ度:痔核が肛門管内にとどまっている段階。出血することはあるが軽度。
- Ⅱ度:痔核が大きくなり、腫れも強くなって排便時に肛門から脱出するが、排便後は自然にもとに戻る段階。
- Ⅲ度:排便時に脱出した痔核が、指で押し戻さないと中に入らない段階。
- Ⅳ度:腫れがひどくなり、痔核が脱出したまま指で押し戻すこともできない段階。
歯状線の内部には痛みを感じる痛覚がないため、基本的には内痔核では痛みは生じません。一方、外痔核は多くのケースで痛みをともないます。特に炎症を起こし、腫れると激しく痛む場合があります。
切れ痔(裂肛)の特徴
切れ痔は、肛門の皮膚が切れたり裂けたりし、傷ができる状態です。医学的には「裂肛」と呼び、痛みや出血がある場合が多いです。
便が硬いときや無理にいきんだときに肛門の皮膚が切れてしまうことで発症します。痛みや出血の程度はケースによって異なりますが、排便時に強い痛みを感じることが特徴です。
急性期(傷ができたばかりの時期)における主な症状は、軽い出血や排便時の痛みですが、慢性化すると、肛門に潰瘍やポリープができたり、肛門が狭くなったりするケースがあります。
肛門が狭くなることを「肛門狭窄」と呼び、手術が必要になるケースもあります。
痔ろう(痔瘻)の特徴
痔ろうは、細菌が肛門周囲の皮膚に感染し、膿が溜まることで、肛門と直腸を繋ぐトンネルができてしまう病気です。
症状としては、肛門周囲の痛みや腫れ、出血などが現れます。膿が溜まって肛門周囲に穴が開いてしまっている状態であり、内科的な治療では治すことができないため、外科的な手術が必要となります。
痔は自然治癒するのか?
「痔は放っておいても自然に治るのか」という疑問を持つ方は多いでしょう。結論から言うと、痔の種類や程度によって自然治癒の可能性は大きく異なります。
軽度のいぼ痔や切れ痔の場合、適切なセルフケアを行うことで症状が改善することはあります。特に初期段階のものであれば、生活習慣の改善や市販薬の使用により症状が和らぐことも少なくありません。
しかし、症状が進行した痔や痔ろうの場合は、自然治癒を期待するのは難しいと言わざるを得ません。特に痔ろうは膿が溜まって肛門周囲に穴が開いてしまっている状態であり、内科的な治療では治すことができないため、外科的な手術が必要となります。
また、一時的に症状が改善したように見えても、根本的な原因が解消されていなければ再発する可能性が高いです。痔は「生活習慣病」的な側面も持っているため、便秘や下痢、長時間の座位など、発症の原因となる生活習慣を改善しない限り、完全な治癒は難しいでしょう。
いぼ痔の自然治癒の可能性
いぼ痔(痔核)の自然治癒の可能性は、その程度によって大きく異なります。
Ⅰ度やⅡ度の比較的軽度のいぼ痔であれば、適切なセルフケアと生活習慣の改善により症状が和らぐことはあります。特に、便通を整えることや、長時間座らないようにするなど、肛門への負担を減らす工夫をすることで改善が見込めるケースもあります。
しかし、Ⅲ度やⅣ度の進行したいぼ痔の場合、自然治癒を期待するのは現実的ではありません。特に痔核が肛門から脱出し、指で押し戻さなければならない状態や、脱出したまま戻らない状態では、専門的な治療が必要です。
いぼ痔は一度できると完全に元の状態に戻ることは難しく、症状のコントロールが治療の目標となることが多いです。
切れ痔の自然治癒の可能性
切れ痔(裂肛)は、比較的自然治癒しやすい痔の一種です。特に急性期の浅い傷であれば、適切なケアにより1~2週間程度で治癒することもあります。
ただし、慢性化した切れ痔や、深い傷がある場合は自然治癒が難しくなります。特に肛門狭窄を伴う場合は、専門的な治療が必要です。
切れ痔の自然治癒を促すためには、便を柔らかくして排便時の痛みや傷の悪化を防ぐことが重要です。水分摂取や食物繊維の摂取を増やし、便秘を予防することが大切です。
痔ろうの自然治癒の可能性
痔ろう(痔瘻)は、自然治癒が最も難しい痔の種類です。
痔ろうは肛門と直腸を繋ぐトンネル(瘻管)ができてしまった状態であり、このトンネルが自然に塞がることはほとんどありません。膿が溜まって肛門周囲に穴が開いている状態であり、内科的な治療では治すことができないため、外科的な手術が必要となります。
痔ろうを放置すると、膿が周囲の組織に広がり、症状が悪化する可能性があります。痔ろうの症状がある場合は、早めに専門医を受診することをお勧めします。
痔の自己対処法と予防策
痔の症状を和らげるためには、適切な自己対処が重要です。ここでは、痔の種類別に効果的な対処法と予防策をご紹介します。
いぼ痔の対処法
いぼ痔の症状を和らげるためには、以下のような対処法が効果的です。
- おしりに負担をかけない排泄を心がける:排便時に無理にいきむと、おしりに負担がかかり、うっ血を起こしやすくなります。無理に出そうとせず、出ないときは早く切りあげ、便意を催したときに短時間で排便するようにしましょう。
- 肛門を温める:入浴時には、湯船にゆっくりと浸かっておしりを温めるようにしましょう。おしりを温めることで、うっ血が改善されいぼ痔の症状を和らげることもできると言われています。
- 便秘や下痢にならないような生活を心がける:便秘や下痢が続いていると、排泄の度に腸や肛門に負担がかかり、いぼ痔を繰り返す原因になります。食事や運動、睡眠時間などの生活習慣を見直して、便通をよくする工夫をしましょう。
- いぼ痔を無理に押し込まない:肛門から何か出ている場合、排便でいきんだときなどに、内痔核が脱出した可能性があります。肛門周辺を清潔にした後、突出した部分をやさしく押し込んでもいいでしょう。ただし痛みがある場合は無理に押し込んではいけません。
- 市販薬を活用する:いぼ痔の症状を和らげる市販薬もあるので、上手に利用することをおすすめします。患部に直接注入する座薬や軟膏などの外用薬のほか、体の中からいぼ痔に直接作用して、症状を抑えたり改善したりする内服薬もあります。
切れ痔の対処法
切れ痔の症状を和らげるためには、以下のような対処法が効果的です。
- 便を柔らかくする:硬い便は肛門の傷を悪化させる原因となります。水分摂取や食物繊維の摂取を増やし、便を柔らかくすることで排便時の痛みを軽減できます。
- 清潔を保つ:排便後はやさしく洗浄し、清潔を保ちましょう。ウォシュレットやシャワーでやさしく洗い流すのが効果的です。
- 温めて血行を促進する:温かいお湯に浸かることで、肛門周囲の血行が良くなり、傷の治癒を促進します。
- 市販薬を利用する:切れ痔用の軟膏や座薬を使用することで、痛みや炎症を抑えることができます。
切れ痔は比較的自然治癒しやすい痔ですが、慢性化すると治りにくくなります。症状が2週間以上続く場合や、痛みが強い場合は専門医を受診しましょう。
痔の予防策
痔の予防には、日常生活での心がけが重要です。以下のような予防策を実践しましょう。
- 規則正しい排便習慣を身につける:毎日決まった時間に排便する習慣をつけることで、便秘を予防できます。
- 食物繊維を多く摂る:野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維を多く含む食品を積極的に摂ることで、便通を整えることができます。
- 水分を十分に摂る:1日に1.5~2リットルの水分を摂ることで、便を柔らかく保ち、排便をスムーズにします。
- 長時間の座位を避ける:長時間座り続けると、肛門周囲の血行が悪くなり、痔になりやすくなります。1時間に一度は立ち上がって、軽く体を動かしましょう。
- 適度な運動を心がける:適度な運動は腸の働きを活発にし、便通を良くします。ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で行いましょう。
- トイレを我慢しない:便意を感じたら我慢せず、なるべく早くトイレに行きましょう。便意を我慢すると、便が硬くなり、排便時に肛門に負担がかかります。
これらの予防策は、痔の発症予防だけでなく、すでに痔がある方の症状緩和や再発防止にも効果的です。日常生活に取り入れて、肛門の健康を守りましょう。
痔の治療法
痔の症状が重い場合や、自己対処で改善しない場合は、医療機関での治療が必要になります。ここでは、痔の種類別に主な治療法をご紹介します。
薬物療法
痔の初期段階や軽度の症状の場合、薬物療法が第一選択となることが多いです。
薬物療法では、痛みや出血を抑えるために、塗り薬や座薬が使用されます。また、便秘や下痢などによって肛門に負担がかかることで症状が悪化するため、便通を調整する薬を併用することもあります。
いぼ痔の場合、いぼが肛門の中に納まっている場合や、飛び出してもすぐに戻る場合、または痛みがない場合には、軟膏や座薬を使って症状を軽減させることができます。
切れ痔の場合、肛門の皮膚に切れ目が入っている状態ですが、その傷が浅い場合は、軟膏や座薬で傷の治癒を待ちながら、便を柔らかくする薬を使用して肛門にかかる負担を軽減します。
しかし、いぼ痔や切れ痔で治りが遅い場合や、痛みが強い場合には、薬物療法だけでは十分な効果が得られないことがあります。その場合は、より積極的な治療法が検討されます。
手術療法
薬物療法で症状が改善しない場合や、症状が重い場合は、手術療法が検討されます。
いぼ痔の手術には、いくつかの方法があります。
- 結紮切除術:痔核を切除する従来の手術法です。
- PPH法:痔核を切除せず、痔核のある直腸粘膜を環状に切除・縫合する方法です。
- ジオン注射療法:痔核に硬化剤を注射して、痔核を縮小させる方法です。「ALTA療法」とも呼ばれ、痛みが少ない治療法として注目されています。
切れ痔の手術には、以下のような方法があります。
- 側方皮下内括約筋切開術:肛門の括約筋の一部を切開し、肛門の緊張を緩和する手術です。
- 肛門形成術:肛門狭窄がある場合に行われる手術で、狭くなった肛門を広げます。
痔ろうの手術には、以下のような方法があります。
- 切開開放術:瘻管を切開して開放し、創を開放したまま治癒を待つ方法です。
- 括約筋温存手術:括約筋を温存しながら瘻管を切除する方法で、括約筋機能を保つことができます。
手術の方法は、痔の種類や程度、患者さんの状態などによって異なります。どの手術が最適かは、専門医との相談の上で決定されます。
消化器内科でできる痔の治療
痔の治療は、肛門外科や消化器外科で行われることが多いですが、消化器内科でも対応可能な治療があります。
消化器内科では、肛門からの出血がある場合、大腸がんなどの病気を排除するために、大腸カメラ(内視鏡検査)を行います。この検査を通じて、痔以外の病気が隠れていないかを確認します。
大腸がんなどが否定され、痔と診断された場合は、その症状に合った治療を行います。主に薬物療法が中心となりますが、症状が改善しない場合は、肛門外科や消化器外科への紹介が検討されます。
肛門に関する症状は、恥ずかしくてなかなか受診できないという方も多いかもしれません。しかし、肛門からの出血や痛みがある場合、それが必ずしも痔によるものとは限りません。場合によっては、大腸がんや他の病気が隠れていることもあるのです。
そのため、症状が続くようであれば、市販薬を使い続けても改善しない場合は、早めに医師の診断を受けることが重要です。
痔の放置リスクと受診の目安
痔の症状を放置することには、いくつかのリスクがあります。ここでは、痔を放置するリスクと、医療機関を受診すべき目安についてご説明します。
痔を放置するリスク
痔の症状を放置すると、以下のようなリスクがあります。
- 症状の悪化:適切な治療を行わないと、症状が進行し、より重症化する可能性があります。特にいぼ痔は進行すると、より大きくなり、出血や痛みが増す傾向があります。
- 合併症の発生:痔を放置すると、肛門周囲膿瘍や痔ろうなどの合併症を引き起こす可能性があります。
- QOL(生活の質)の低下:痛みや出血、不快感などの症状が続くことで、日常生活に支障をきたし、QOLが低下する可能性があります。
- 重大な疾患の見逃し:肛門からの出血や痛みは、痔だけでなく、大腸がんなどの重大な疾患の症状である可能性もあります。自己判断で痔と決めつけて放置すると、重大な疾患を見逃す恐れがあります。
医療機関を受診すべき目安
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
- 出血が続く:排便時に少量の鮮血が付着する程度であれば、いぼ痔や切れ痔の可能性が高いですが、出血が続く場合や、大量の出血がある場合は、早めに受診しましょう。
- 強い痛みがある:肛門の痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合は、受診が必要です。
- いぼが大きくなる:肛門周囲のいぼが大きくなり、排便時に飛び出すようになった場合は、受診しましょう。
- 市販薬で改善しない:市販薬を使用しても症状が改善しない場合は、専門的な治療が必要かもしれません。
- 症状が2週間以上続く:痔の症状が2週間以上続く場合は、医療機関での診断を受けることをお勧めします。
- 肛門周囲に腫れや膿がある:肛門周囲に腫れや膿がある場合は、痔ろうや肛門周囲膿瘍の可能性があります。早めに受診しましょう。
痔の症状は恥ずかしいと感じて受診を躊躇する方も多いですが、早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。気になる症状がある場合は、遠慮なく医療機関を受診しましょう。
専門医の選び方
痔の治療を受ける際は、以下のような点を考慮して専門医を選ぶとよいでしょう。
- 肛門外科や消化器外科、消化器内科の専門医であること
- 痔の治療実績が豊富であること
- 複数の治療法を提供していること(患者の状態に合わせた治療法を選択できる)
- 通院のしやすさ(立地や診療時間など)
- 設備が充実していること(内視鏡検査ができる環境など)
また、初診時には以下のような点を医師に伝えるとよいでしょう。
- 症状の詳細(いつから、どのような症状があるか)
- これまでの治療歴(市販薬の使用など)
- 生活習慣(食事、運動、排便習慣など)
- 持病や服用中の薬
医師とのコミュニケーションを大切にし、不安や疑問点は遠慮なく相談しましょう。
まとめ
痔は国民病とも言われるほど多くの方が悩まされている疾患です。痔には「いぼ痔」「切れ痔」「痔ろう」の3種類があり、それぞれ原因や症状、治療法が異なります。
痔の自然治癒の可能性は、種類や程度によって異なります。軽度のいぼ痔や切れ痔であれば、適切なセルフケアにより症状が改善することもありますが、進行した痔や痔ろうの場合は、専門的な治療が必要です。
痔の予防や症状緩和には、規則正しい排便習慣、食物繊維の摂取、水分補給、適度な運動など、日常生活での心がけが重要です。また、症状が続く場合や、強い痛みや出血がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
痔の症状は恥ずかしいと感じて受診を躊躇する方も多いですが、早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。また、肛門からの出血や痛みは、痔だけでなく、大腸がんなどの重大な疾患の症状である可能性もあるため、自己判断せずに専門医の診断を受けることが大切です。
痔の症状でお悩みの方は、ぜひ当院にご相談ください。消化器・内視鏡専門医として、患者様の症状に合わせた適切な治療をご提案いたします。
詳しい診療内容や予約方法については、石川消化器内科・内視鏡クリニックのホームページをご覧ください。
著者情報
理事長 石川 嶺
経歴
近畿大学医学部医学科卒業 |
和歌山県立医科大学臨床研修センター |
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科 |
近畿大学病院 消化器内科医局 |
石川消化器内科内視鏡クリニック開院 |