胃潰瘍の症状チェックリスト〜要注意の10のサイン
胃潰瘍とは?現代人に増加する消化器疾患
胃潰瘍は、胃の内壁が胃酸によって傷つけられ、粘膜が深くえぐれたようになる病気です。胃の粘膜を守る防御機能と胃酸の分泌バランスが崩れることで発症します。
胃液は強い酸性を示す消化液で、食べ物の消化や病原体の殺菌に重要な役割を果たしています。健康な状態では、胃液が胃の粘膜を溶かすことはありません。
しかし、何らかの原因で胃酸が過剰に分泌されたり、胃粘膜の防御機能が低下したりすると、胃液が胃粘膜を溶かしてしまうことがあるのです。その結果、炎症やびらんを引き起こし、胃潰瘍へと進行していきます。
以前は男性に多い病気でしたが、現在では性別に関係なく発症する病気となっています。特に現代社会では、ストレスや不規則な生活習慣、食生活の乱れなどから胃潰瘍を発症するリスクが高まっています。
胃潰瘍の主な原因〜ピロリ菌感染が最多
胃潰瘍の原因として、最も多いのがピロリ菌感染です。胃潰瘍の70%以上がピロリ菌感染を原因として起こると言われています。
ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌で、胃の粘膜に炎症を引き起こす原因菌です。ピロリ菌自身の周りにアンモニアを生成することで、強い胃酸を中和し胃の中に住み続けることができます。
長期間にわたってピロリ菌が胃内に存在すると、胃粘膜を傷つけ、胃潰瘍のリスクを高めるのです。また、ピロリ菌は胃がんの原因にもなることが知られています。
ピロリ菌以外にも、以下のような原因が挙げられます。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):解熱鎮痛薬などの長期服用が胃潰瘍を引き起こすことがあります。特に注意が必要なのは、頭痛や生理痛で簡単に服用する鎮痛薬です。
- ストレス:過労、寝不足、緊張、不安などの心身のストレスが胃潰瘍の原因になることがあります。
- 暴飲暴食:暴飲暴食や早食い、刺激物の摂り過ぎは胃酸の分泌を過剰にさせ、胃粘膜を刺激します。
- 喫煙:喫煙は胃粘膜の血流を低下させるため、胃潰瘍のリスク要因となります。
一昔前まではストレスや暴飲・暴食による病気と思われてきた胃潰瘍ですが、現在ではピロリ菌感染が主な原因であることが明らかになっています。また、NSAIDs潰瘍も増加傾向にあります。
胃潰瘍の症状チェックリスト〜10の要注意サイン
胃潰瘍の症状は人によって異なりますが、典型的な症状をチェックリストにまとめました。
以下のチェックリストで、自分の症状を確認してみましょう。一つでも当てはまる場合は、胃潰瘍の可能性があります。特に11〜12の症状がある場合は重篤な状態であり、早急に医療機関を受診する必要があります。
- みぞおちの痛み(特に空腹時):胃潰瘍の最も一般的な症状です。食事を終えたあたりから痛みが出てくることが多いです。
- 胸やけ:胃酸が食道に逆流することで起こる灼熱感です。
- げっぷが多い、酸っぱいげっぷ:胃酸が過剰に分泌されることで起こります。
- 吐き気・嘔吐:胃の不調によって起こる症状です。
- 胃もたれ:食後に胃が重く感じる不快感です。
- 口臭:胃の状態が悪化すると口臭が強くなることがあります。
- 食欲不振:胃の痛みや不快感から食欲が低下します。
- 体重減少:食欲不振が続くと体重が減少することがあります。
- 背中の痛み:胃潰瘍が進行すると背中に痛みを感じることがあります。
- 便の色の変化:特に黒い便(コールタール便)は出血のサインです。
さらに、以下の症状がある場合は重篤な状態であり、緊急性が高いため、すぐに医療機関を受診してください。
- 吐血:胃からの出血が多量の場合に起こります。緊急性の高い症状です。
- 黒い便(コールタール便):胃からの出血が消化されて黒くなった便です。緊急性の高い症状です。
胃潰瘍の症状は、胃がんや慢性胃炎、機能性ディスペプシアなど、他の消化器疾患と共通する部分も多いため、正確な診断には胃カメラ検査が必要です。
胃潰瘍の症状と他の疾患との見分け方
胃潰瘍の症状は他の消化器疾患と似ていることが多く、自己判断は難しいものです。ここでは、胃潰瘍と間違えやすい疾患との違いについて解説します。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い
胃潰瘍と十二指腸潰瘍は合わせて「消化性潰瘍」と呼ばれることもありますが、痛みのタイミングに違いがあります。
- 胃潰瘍:胃に食物が入ったころから出ていくまでの間に痛くなる。食事を終えたあたりから痛みが出てくることが多い。
- 十二指腸潰瘍:主に早朝や空腹時に痛くなる。
胃は空腹時に痛むと思われがちですが、実際には胃潰瘍の場合、胃に内容物がない時間帯は痛まないことが多いのです。
胃潰瘍と胃がんの違い
胃潰瘍と胃がんは症状が似ていることがあり、区別が難しい場合があります。以下のような違いがありますが、確定診断には胃カメラ検査が必要です。
- 胃潰瘍:痛みが周期的に現れることが多く、食事や胃酸を抑える薬で症状が改善することがある。
- 胃がん:徐々に症状が悪化することが多く、食事や薬での改善が見られにくい。進行すると体重減少や貧血などの全身症状が現れやすい。
胃潰瘍の潜在的な患者数は人口比で1%と言われており、日本には100万人以上いると考えられています。近年の治療薬の進歩は目覚ましく、強力な胃酸分泌抑制薬の登場で治癒しやすくなりました。
しかし、再発しやすいという特徴は改善がみられず、長年悩まれている方も多いでしょう。ピロリ菌保菌者の再発率は高く、投薬だけでなく、内視鏡検査によるピロリ菌検査と除菌など抜本的な治療が望まれます。
胃潰瘍の検査と診断方法
胃潰瘍の確定診断には、内視鏡検査(胃カメラ検査)が最も確実です。症状だけでは他の疾患との区別が難しいため、内視鏡検査で胃の内部を直接観察することが重要です。
一般的に胃潰瘍は、ストレスに起因するものと捉えられ、強力な治療薬の登場も相まって、重篤な病気と考えられなくなってしまっていることに加え、みぞおちの痛みとの患者様からの訴えで胃潰瘍とされがちな傾向もあります。
しかし、胃潰瘍でみられる自覚症状はより重篤な病気でも見られる症状と同じであり、検査をせずに決めてかかると、後日取り返しのつかない結果になりかねません。
胃については症状の進展が早い傾向があるため、自覚症状があってから潰瘍の治療を始め、なかなか治らず2〜3年たった後に内視鏡検査をして、そこで発見されても手遅れのケースも十分考えられますので、ご注意ください。
胃潰瘍であることを確認するためではなく、より重篤な病気でないことを確認するために内視鏡検査を行い、胃潰瘍の治療を開始すべきです。
胃潰瘍の検査方法
- 内視鏡検査(胃カメラ):最も確実な検査方法で、胃の内部を直接観察できます。必要に応じて組織を採取し、病理検査を行うことも可能です。
- バリウム検査(胃部X線検査):バリウムを飲み、X線で胃の形を観察する検査です。内視鏡検査ほど詳細な観察はできませんが、スクリーニング検査として用いられることがあります。
- ピロリ菌検査:血液検査、呼気検査、便検査などでピロリ菌の感染を調べることができます。
- 血液検査:貧血の有無や炎症反応を調べることができます。
胃の内視鏡検査は朝食をとらずに来院されれば、多くの医療機関では当日でも受診可能です。胃の内部は患者様もご一緒にご覧になりながら確認していただくことも可能です。
胃潰瘍の治療法と再発予防
胃潰瘍の治療は、原因に応じた適切な治療が重要です。主な治療法は以下の通りです。
薬物療法
胃潰瘍の治療には、主に以下の薬剤が使用されます。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を強力に抑える薬です。
- H2受容体拮抗薬:胃酸の分泌を抑える薬です。PPIよりも作用は弱めです。
- 胃粘膜保護薬:胃の粘膜を保護し、修復を促進する薬です。
- 制酸薬:胃酸を中和する薬です。
近年の治療薬の進歩が目覚ましく、強力な胃酸分泌抑制薬(H2ブロッカー、プロトンポンプインヒビター)などの登場で治癒しやすくなりました。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌が原因の胃潰瘍は、抗菌薬を使ったピロリ菌の除菌と胃潰瘍の治療の両方を行う方法が勧められます。ピロリ菌陽性胃潰瘍は胃酸を抑える薬で治療しますが、おおもとのピロリ菌を放っておくと再発をくり返してしまいます。
ピロリ菌の診断と除菌治療は保険が使えるので、胃潰瘍を繰り返す場合は必ず、ピロリ菌の有無を調べる検査を受けてみましょう。ピロリ菌が見つかったらしめたもので、除菌治療が成功した後の再発率は激減します。
NSAIDs潰瘍の治療
NSAIDs潰瘍の場合は一旦、潰瘍を引き起こしている解熱鎮痛薬を止め、胃酸を抑える薬を服用します。どうしても解熱鎮痛薬が必要な場合は、胃粘膜保護薬を併用するなどの対策が必要です。
NSAIDs潰瘍はお薬の飲み方をきちんとセルフチェックすることで予防できる疾患です。解熱鎮痛薬の正しい服用方法を守りましょう。
また、坐薬タイプの解熱鎮痛薬でも胃潰瘍ができることに注意が必要です。薬は血液の中に「効き目成分」が溶け出すことで効果を発揮するので、投与経路が口でもおしりでも吸収された後は身体への影響は変わりません。
生活習慣の改善
胃潰瘍の治療には、薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も重要です。
- 規則正しい食生活:暴飲暴食を避け、規則正しい時間に食事をとりましょう。
- 禁煙:喫煙は胃粘膜の血流を低下させるため、禁煙が推奨されます。
- アルコールの制限:アルコールは胃粘膜を刺激するため、適量を心がけましょう。
- ストレス管理:ストレスは胃酸の分泌を促進するため、ストレス管理が重要です。
- 適切な薬の服用:NSAIDsなどの薬を服用する場合は、医師の指示に従い、胃粘膜保護薬を併用するなどの対策をとりましょう。
胃潰瘍の合併症と注意すべき危険信号
胃潰瘍は適切な治療を行わないと、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。特に注意すべき合併症と危険信号について解説します。
胃潰瘍の主な合併症
- 出血:潰瘍が深くなると、血管を傷つけて出血することがあります。吐血や黒い便(コールタール便)として現れます。
- 穿孔:潰瘍が胃壁を貫通して穴があくと、胃の内容物が腹腔内に漏れ出し、腹膜炎を引き起こします。激しい腹痛や発熱などの症状が現れます。
- 狭窄:潰瘍が治癒する過程で瘢痕(はんこん)を形成し、胃の出口が狭くなることがあります。食物が胃から十二指腸に通過しにくくなり、嘔吐や体重減少などの症状が現れます。
- 貧血:慢性的な出血により、鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。疲労感や息切れなどの症状が現れます。
危険信号と緊急受診が必要な症状
以下の症状がある場合は、胃潰瘍の重篤な合併症の可能性があります。すぐに医療機関を受診してください。
- 突然の激しい腹痛:穿孔の可能性があります。
- 吐血:鮮血や暗赤色の血を吐く場合は、緊急性の高い症状です。
- 黒い便(コールタール便):胃からの出血が消化されて黒くなった便です。
- 冷や汗、めまい、失神:大量出血によるショック状態の可能性があります。
- 発熱を伴う腹痛:穿孔による腹膜炎の可能性があります。
胃潰瘍は適切な治療を行えば治癒する病気ですが、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。症状がある場合は早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
胃潰瘍の予防と日常生活での注意点
胃潰瘍は適切な予防策と生活習慣の改善によって、発症や再発のリスクを減らすことができます。ここでは、胃潰瘍の予防と日常生活での注意点について解説します。
胃潰瘍の予防法
- ピロリ菌検査と除菌:ピロリ菌が陽性の場合は、除菌治療を受けることで胃潰瘍の発症リスクを減らすことができます。
- NSAIDsの適切な使用:解熱鎮痛薬を使用する場合は、医師の指示に従い、用法・用量を守りましょう。長期使用が必要な場合は、胃粘膜保護薬の併用を検討してください。
- 規則正しい食生活:暴飲暴食を避け、規則正しい時間に食事をとりましょう。また、刺激物(唐辛子、カフェイン、アルコールなど)の過剰摂取を控えましょう。
- 禁煙:喫煙は胃粘膜の血流を低下させるため、禁煙が推奨されます。
- ストレス管理:適度な運動やリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを軽減しましょう。
日常生活での注意点
胃潰瘍の治療中や予防のために、日常生活で気をつけるべきポイントをご紹介します。
- 食事の工夫:胃に負担をかけないよう、消化のよい食事を心がけましょう。また、一度に大量の食事をとるのではなく、少量ずつ複数回に分けて食べるとよいでしょう。
- 刺激物を控える:辛い食べ物、酸味の強い食べ物、カフェイン、アルコールなどの刺激物は胃粘膜を刺激するため、控えめにしましょう。
- 薬の正しい服用:胃潰瘍の治療薬は医師の指示通りに服用しましょう。また、NSAIDsなどの胃に負担をかける薬は、医師に相談した上で使用してください。
- 十分な睡眠:睡眠不足はストレスの原因となり、胃酸の分泌を促進するため、十分な睡眠をとりましょう。
- 定期的な検診:胃潰瘍の既往がある方や、ピロリ菌陽性の方は、定期的に胃の検査を受けることをおすすめします。
胃潰瘍は再発しやすい病気ですが、適切な予防策と生活習慣の改善によって、再発のリスクを減らすことができます。症状がある場合は早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
胃潰瘍はピロリ菌の除菌やNSAIDsの適切な服用で予防できる疾患です。正しい知識を身につけて、しっかりセルフケアをしましょう。
まとめ〜胃潰瘍の早期発見と適切な治療が大切
胃潰瘍は、胃の内壁が胃酸によって傷つけられ、粘膜が深くえぐれたようになる病気です。主な原因はピロリ菌感染ですが、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用、ストレス、暴飲暴食、喫煙なども関与します。
胃潰瘍の症状は、みぞおちの痛み(特に食後)、胸やけ、げっぷ、吐き気、胃もたれ、口臭、食欲不振、体重減少、背中の痛み、便の色の変化などがあります。特に吐血や黒い便がある場合は重篤な状態であり、緊急の医療処置が必要です。
胃潰瘍の診断には内視鏡検査(胃カメラ)が最も確実です。胃潰瘍でみられる自覚症状はより重篤な病気でも見られる症状と同じであり、検査をせずに決めてかかると、後日取り返しのつかない結果になりかねません。
胃潰瘍の治療は、原因に応じた適切な治療が重要です。ピロリ菌が原因の場合は除菌治療、NSAIDsが原因の場合は薬の中止や変更、そして胃酸を抑える薬や胃粘膜を保護する薬による治療が行われます。
胃潰瘍は適切な治療を行えば治癒する病気ですが、放置すると出血、穿孔、狭窄、貧血などの合併症を引き起こす可能性があります。症状がある場合は早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
胃潰瘍の予防には、ピロリ菌検査と除菌、NSAIDsの適切な使用、規則正しい食生活、禁煙、ストレス管理などが効果的です。日常生活では、胃に負担をかけない食事の工夫、刺激物を控える、薬の正しい服用、十分な睡眠、定期的な検診などを心がけましょう。
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著者情報
理事長 石川 嶺
経歴
近畿大学医学部医学科卒業 |
和歌山県立医科大学臨床研修センター |
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科 |
近畿大学病院 消化器内科医局 |
石川消化器内科内視鏡クリニック開院 |