TOPへ

Language言語切替

コラム

胃もたれと胃痛の違いとは?症状から考える原因と対処法

胃カメラ

胃もたれと胃痛の違い - 症状の特徴を理解しよう

「お腹が痛い」「胃がもたれる」という表現、日常的によく使いますよね。しかし、この二つの症状は実は全く異なるものです。

胃の不調は生活の質を大きく下げてしまいます。特に食事の楽しみが減ってしまうのは辛いものです。胃もたれと胃痛、どちらも不快な症状ですが、その原因や対処法は異なります。

消化器内科医として多くの患者さんを診てきた経験から、この二つの症状の違いと適切な対応方法についてお伝えします。症状を正しく理解することで、より効果的な対処が可能になります。

胃もたれとは?主な症状と感じ方の特徴

胃もたれとは、食べたものが胃の中に長時間残っているような不快感です。短い言葉で表現すると、「胃が重い」「胃がふくれた感じ」という状態です。

胃もたれの主な症状には以下のようなものがあります。

  • 胃が重く感じる - 食後に胃の辺りが重たく感じる不快感
  • 膨満感 - お腹が張った感じがする
  • 食欲不振 - 食べる気が起きない
  • 吐き気 - 軽度の吐き気を伴うことがある
  • げっぷが増える - 空気やガスが上がってくる

胃もたれは主に食後に発生することが多く、特に脂っこいものや消化に時間のかかる食べ物を摂取した後に起こりやすい傾向があります。

胃もたれを経験したことがある方なら分かると思いますが、痛みというよりは「不快感」や「重苦しさ」が主な症状です。胃の中で食べ物がなかなか消化されず、いつまでも残っているような感覚に悩まされます。

あなたも食べ過ぎた翌日に「胃がもたれる」と感じたことはありませんか?

胃痛とは?痛みの特徴と感じ方

胃痛は、その名の通り胃に痛みを感じる症状です。一般的にみぞおちの辺り(上腹部)に痛みが現れることを「胃痛」と表現します。胃もたれとは異なり、明確な「痛み」として自覚されます。

胃痛の主な特徴は以下の通りです。

  • 鋭い痛み - みぞおち周辺に鋭い痛みを感じる
  • 灼熱感 - 胃が焼けるような痛み
  • 空腹時の痛み - 特に空腹時に痛みが強くなることがある
  • 食後の痛み - 食事後に痛みが生じることもある
  • 持続的な痛み - 数分から数時間続くことがある

胃痛の表現方法は人によって様々です。「シクシク」「キリキリ」「ズキズキ」「キューっと締め付けられる」など、痛みの質も様々です。これらの表現は、原因となる疾患を類推するための重要な手がかりになります。

胃痛は胃もたれと違って、空腹時に起こることもあれば食後に起こることもあります。痛みの強さも様々で、軽度のものから日常生活に支障をきたすほどの強い痛みまであります。

突然の強い胃痛は、重大な疾患のサインであることもあるので注意が必要です。

胃もたれと胃痛の違いを比較

胃もたれと胃痛は似ているようで異なる症状です。両者の違いを明確に理解することで、適切な対処法を選ぶことができます。

以下の表で主な違いを比較してみましょう。

特徴胃もたれ胃痛感覚重苦しさ、膨満感、不快感痛み(鋭い、灼熱感など)発生タイミング主に食後食後、空腹時、不定期持続時間食後数時間~半日程度数分~数時間、慢性的な場合も主な原因食べ過ぎ、消化不良、胃の機能低下胃炎、胃潰瘍、ストレスなど緊急性通常は低い症状によっては高い場合がある

胃もたれは主に消化機能の低下や食べ過ぎによる一時的な症状であることが多いのに対し、胃痛は胃の粘膜の炎症や潰瘍など、より深刻な問題が隠れていることがあります。

また、胃もたれは食後に発生することが多いですが、胃痛は食事のタイミングに関わらず発生することがあります。特に空腹時の胃痛は十二指腸潰瘍の可能性も考えられます。

日常診療では、「胃が痛い」と訴える患者さんが実際には胃もたれを感じているケースや、逆に胃もたれだと思っていたら実は胃潰瘍による痛みだったというケースもあります。

胃もたれの主な原因

胃もたれが起こる原因は様々です。日常生活での習慣から病気まで、幅広い要因が関わっています。

食生活による原因

最も一般的な胃もたれの原因は食生活に関連するものです。

  • 食べ過ぎ・飲み過ぎ - 胃の容量を超える食事量は消化不良を起こします
  • 脂っこい食事 - 脂肪分の多い食事は消化に時間がかかります
  • 早食い - よく噛まずに食べると消化不良の原因になります
  • 冷たい食べ物の摂り過ぎ - 胃の機能を一時的に低下させます
  • アルコールの過剰摂取 - 胃粘膜を刺激し、消化機能を低下させます

特に現代の食生活では、外食やファストフードの増加により、高脂肪・高カロリーの食事を摂る機会が増えています。これらは胃もたれの大きな原因となっています。

生活習慣やストレスによる原因

食生活以外にも、日常の生活習慣やストレスが胃もたれを引き起こすことがあります。

  • ストレス - 自律神経のバランスを崩し、胃の動きを悪くします
  • 睡眠不足 - 体の回復機能が低下し、消化機能にも影響します
  • 運動不足 - 腸の動きが鈍くなり、消化不良を起こしやすくなります
  • 不規則な食事時間 - 胃の消化リズムが乱れます

特にストレスは胃の機能に大きく影響します。ストレスを感じると自律神経のバランスが乱れ、胃の動きが鈍くなったり、胃酸の分泌が過剰になったりして胃もたれを引き起こします。

加齢や疾患による原因

年齢を重ねることによる身体機能の変化や、特定の疾患も胃もたれの原因となります。

  • 加齢 - 胃の粘膜が萎縮し、消化機能が低下します
  • 機能性ディスペプシア - 器質的な異常がなくても胃もたれなどの症状が続く機能性疾患
  • 慢性胃炎 - 胃の粘膜の慢性的な炎症
  • ピロリ菌感染 - 胃粘膜に炎症を起こし、消化機能を低下させます
  • 胃下垂 - 胃の位置が下がり、食物の排出が遅れます

特に機能性ディスペプシアは、内視鏡検査などで明らかな異常が見つからないにもかかわらず、胃もたれなどの症状が続く状態です。日本では増加傾向にあり、ストレス社会を反映した現代病とも言えます。

胃痛の主な原因

胃痛は胃もたれとは異なり、より深刻な問題が隠れていることがあります。主な原因を見ていきましょう。

胃の疾患による胃痛

胃痛の多くは胃自体の問題によって引き起こされます。

  • 急性胃炎 - 胃の粘膜に急性の炎症が起きた状態
  • 慢性胃炎 - 長期間にわたり胃の粘膜が炎症を起こしている状態
  • 胃潰瘍 - 胃の粘膜が損傷し、粘膜下層まで達した状態
  • 胃がん - 初期段階では症状が乏しいことも多いですが、進行すると胃痛を引き起こします
  • 機能性ディスペプシア - 器質的な異常がなくても胃痛などの症状が続く機能性疾患

特に胃潰瘍は、胃酸や消化酵素によって胃の粘膜が傷つけられ、深い潰瘍ができた状態です。鋭い痛みを感じることが多く、食事によって痛みが和らぐこともあれば、悪化することもあります。

ピロリ菌感染と胃痛

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃痛の重要な原因の一つです。

ピロリ菌は胃の粘膜に住み着き、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因となります。ピロリ菌は胃の中の強い酸性環境でも生存できる特殊な細菌で、ウレアーゼという酵素を産生して自分の周囲をアルカリ性に変化させて生育します。

ピロリ菌感染は胃がんのリスク因子としても知られており、除菌治療が推奨されています。除菌治療は2種類の抗菌薬と1種類の胃酸を抑える薬を組み合わせた3点セットを1週間服用するのが一般的です。

ストレスと薬剤による胃痛

外的要因による胃痛も少なくありません。

  • ストレス性胃炎 - 精神的ストレスによって胃酸の分泌が増加し、胃粘膜を傷つける
  • 薬剤性胃炎 - NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの薬の副作用で胃粘膜が損傷される
  • アルコール性胃炎 - 過度の飲酒により胃粘膜が刺激され炎症を起こす

特に注意が必要なのは、頭痛薬や解熱鎮痛薬などに含まれるNSAIDsです。これらの薬は胃の粘膜を保護するプロスタグランジンの合成を阻害するため、長期間の使用で胃粘膜が傷つき、胃痛や胃潰瘍を引き起こすことがあります。

胃もたれの対処法と予防法

胃もたれは日常生活の中で比較的よく経験する症状です。適切な対処と予防で快適な生活を取り戻しましょう。

食生活の改善

胃もたれの多くは食生活の改善で対処できます。

  • 少量ずつ、ゆっくり食べる - 一度に大量の食事を摂らず、よく噛んで食べましょう
  • 脂っこい食事を控える - 揚げ物や脂肪分の多い食品は消化に負担がかかります
  • 消化のよい食事を選ぶ - 煮物や蒸し物など、消化に優しい調理法の食事を選びましょう
  • 食事の時間を規則正しく - 毎日同じ時間に食事をとることで、胃の働きが整います
  • 就寝前の食事を避ける - 寝る2〜3時間前までに食事を終えるようにしましょう

特に「腹八分目」を意識することは重要です。満腹まで食べると胃に負担がかかり、消化不良を起こしやすくなります。また、食事中の水分摂取も適量にとどめ、食後にゆっくり水分を補給する方が胃への負担が少なくなります。

生活習慣の見直し

食生活だけでなく、日常の生活習慣も胃もたれに大きく影響します。

  • 適度な運動 - 軽い運動は消化を促進し、胃腸の働きを活発にします
  • ストレス管理 - リラクゼーションやストレス発散法を取り入れましょう
  • 十分な睡眠 - 質の良い睡眠は胃腸の回復に不可欠です
  • 禁煙 - 喫煙は胃の血流を悪くし、消化機能を低下させます
  • アルコールを控える - 過度の飲酒は胃粘膜を刺激し、胃もたれの原因になります

特に食後の軽い散歩は、消化を促進し胃もたれを和らげるのに効果的です。ただし、激しい運動は逆効果なので注意しましょう。

市販薬と漢方薬

一時的な胃もたれには、適切な市販薬や漢方薬が役立つことがあります。

  • 消化酵素薬 - 消化を助ける酵素を補充します
  • 胃腸の働きを整える薬 - 胃の動きを活発にし、消化を促進します
  • 六君子湯(りっくんしとう) - 食欲不振や胃もたれに効果がある漢方薬
  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) - ストレスによる胃もたれに効果的な漢方薬

ただし、市販薬でも副作用のリスクはあります。使用前に説明書をよく読み、症状が長引く場合は医療機関を受診することをお勧めします。

胃痛の対処法と治療法

胃痛は原因によって適切な対処法が異なります。症状や原因に合わせた対応が重要です。

生活習慣の改善

胃痛の多くは生活習慣の改善で和らげることができます。

  • 刺激物を避ける - 辛い食べ物、酸っぱい食べ物、アルコール、カフェインなどを控える
  • 規則正しい食事 - 定時に適量の食事をとる
  • ストレス管理 - リラクゼーション法や趣味などでストレスを軽減する
  • 禁煙 - 喫煙は胃の血流を悪くし、胃酸の分泌を促進します
  • NSAIDsの使用を控える - 頭痛薬などの長期使用を避ける

特に空腹時の胃痛がある場合は、小分けに食事をとることで症状が和らぐことがあります。ただし、食べ過ぎは逆効果なので注意しましょう。

薬物療法

胃痛の原因や症状に応じて、様々な薬物療法があります。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI) - タケキャブ、ネキシウム、タケプロンなど、胃酸の分泌を強力に抑える薬
  • H2受容体拮抗薬 - ガスターなど、胃酸分泌を抑制する薬
  • 制酸薬 - 胃酸を中和する薬
  • 胃粘膜保護薬 - 胃の粘膜を保護し、修復を促進する薬
  • 消化管運動機能改善薬 - ガスモチン、アコファイドなど、胃の動きを改善する薬
  • 抗不安薬 - ストレスが原因の場合に処方されることがある

これらの薬は医師の診断と処方に基づいて使用することが重要です。自己判断での長期使用は避けましょう。

ピロリ菌の除菌治療

ピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療が行われます。

ピロリ菌の除菌治療は、2種類の抗菌薬と1種類の胃酸を抑える薬(PPI)を組み合わせた3点セットを1週間服用するのが標準的です。この治療が成功すると、胃炎が改善し潰瘍の再発リスクが低減されるだけでなく、胃がんの発症リスクも低下します。

除菌治療は一度で成功しないこともありますが、その場合は薬の組み合わせを変えて再度治療を行うことがあります。

医療機関を受診すべき症状と時期

胃もたれや胃痛のすべてが自己対処で改善するわけではありません。以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

胃もたれで受診すべき場合

  • 2週間以上続く胃もたれ - 長期間続く症状は何らかの疾患の可能性があります
  • 急激な体重減少を伴う場合 - 悪性疾患の可能性を考慮する必要があります
  • 食事がほとんど摂れないほどの強い症状 - 日常生活に支障をきたす場合は要注意
  • 50歳以上で初めて症状が出た場合 - 年齢的にリスクが高まる疾患もあります
  • 家族に胃がんの既往がある場合 - 遺伝的なリスク因子がある場合は注意が必要

胃痛で受診すべき場合

  • 突然の激しい胃痛 - 穿孔(胃や腸に穴が開く状態)などの緊急性の高い疾患の可能性
  • 黒色便や血便がある - 消化管出血の可能性があります
  • 嘔吐が続く、または嘔吐物に血液が混じる - 重篤な状態の可能性
  • 胸痛や背部痛を伴う - 心疾患や膵臓の疾患の可能性
  • 発熱を伴う - 感染症の可能性
  • 市販薬で改善しない痛み - より専門的な治療が必要な可能性

これらの症状がある場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診することをお勧めします。特に高齢者や基礎疾患のある方は、症状が軽くても早めの受診が望ましいです。

検査と診断

胃もたれや胃痛の原因を特定するために、様々な検査が行われます。

  • 問診 - 症状の詳細、発症時期、生活習慣などを確認
  • 胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査) - 食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察する検査
  • ピロリ菌検査 - 血液検査、呼気検査、便検査などでピロリ菌感染を調べる
  • 腹部超音波検査 - 胃以外の腹部臓器の状態を確認
  • CT検査 - より詳細な画像診断が必要な場合に行われる
  • 血液検査 - 炎症の程度や貧血の有無などを調べる

特に胃カメラ検査は、胃の状態を直接観察できる重要な検査です。検査に不安がある方も、現在は鎮静剤を使用した無痛検査や、細い内視鏡を使用した経鼻内視鏡検査など、患者さんの負担を軽減する方法が多く取り入れられています。

まとめ - 胃もたれと胃痛の違いを理解して適切に対処しよう

胃もたれと胃痛は、どちらも不快な胃の症状ですが、その性質や原因、対処法は異なります。

胃もたれは主に「重苦しさ」や「膨満感」として感じられ、食べ過ぎや消化不良が主な原因です。一方、胃痛は明確な「痛み」として感じられ、胃炎や胃潰瘍などの疾患が隠れていることがあります。

どちらの症状も、食生活や生活習慣の改善で対処できることが多いですが、症状が長引く場合や、警告サインとなる症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

特に胃カメラ検査は胃の状態を直接確認できる重要な検査です。当院では鎮静剤を使用した無痛の内視鏡検査や、経鼻内視鏡検査にも対応しており、患者さんの負担を最小限に抑えた検査が可能です。

胃の健康は全身の健康や生活の質に大きく影響します。症状があれば自己判断せず、専門医に相談することをお勧めします。

胃の不調でお悩みの方は、ぜひ石川消化器内科・内視鏡クリニックにご相談ください。消化器専門医による適切な診断と治療で、健やかな胃腸の状態を取り戻しましょう。

著者情報

理事長 石川 嶺

経歴

近畿大学医学部医学科卒業
和歌山県立医科大学臨床研修センター
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
近畿大学病院 消化器内科医局
石川消化器内科内視鏡クリニック開院