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コラム

雇入れ時健康診断の完全ガイド|法的義務と実施のポイント

健康診断

雇入れ時健康診断とは?法的根拠と実施義務

企業が新たに従業員を迎え入れる際、見落としがちなのが雇入れ時健康診断です。これは単なる形式的な手続きではなく、労働安全衛生法に基づく法的義務なのです。

雇入れ時健康診断とは、企業が労働者を新たに雇い入れる際に実施が義務付けられている医師による健康診断のことを指します。労働安全衛生規則第43条に明確に規定されており、企業側の責任として実施しなければなりません。

この健康診断は、従業員の健康状態を把握し、適切な業務配置や健康管理を行うための重要な第一歩となります。単に法令を遵守するだけでなく、従業員の健康と安全を守るという企業の社会的責任を果たす意味でも大切なものです。

どのような企業が実施する必要があるのでしょうか?答えはシンプルです。従業員を雇用するすべての企業に実施義務があります。企業規模や業種を問わず、正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートタイマーやアルバイトも対象となります。

あなたは「うちの会社は小規模だから関係ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、従業員を一人でも雇用している以上、この義務から逃れることはできないのです。

雇入れ時健康診断の対象者と実施タイミング

雇入れ時健康診断は、すべての新入社員に実施すべきものでしょうか?実は、対象となる労働者には一定の条件があります。

まず、正社員については原則としてすべての方が対象となります。問題となるのは、契約社員やパート・アルバイトなどの非正規雇用者です。これらの方々については、以下の条件に該当する場合に健康診断の実施が必要となります。

  • 雇用期間の定めがない者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約期間が1年以上である者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約更新により1年以上使用される予定の者
  • 雇用期間の定めはあるが、契約更新により1年以上引き続き使用されている者

さらに、上記の条件に加えて、1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の3/4以上である必要があります。例えば、正社員の所定労働時間が週40時間の場合、週30時間以上勤務するパート社員が対象となります。

特に注意が必要なのは、1年契約の契約社員です。「1年を超えない契約だから健診は不要」と考えがちですが、1年ちょうどの契約の場合は実施が必要です。この点は多くの企業が誤解しやすいポイントなので、しっかり押さえておきましょう。

実施のタイミングについては、「雇入れ時」という言葉通り、従業員を雇い入れる際に行います。具体的には、採用が決定してから実際に業務を開始するまでの間に実施するのが一般的です。

ただし、入社前3ヶ月以内に同等の健康診断を受けている場合は、その結果を提出することで新たに受診する必要はありません。これは労働安全衛生規則第43条に明記されている例外規定です。

あなたの会社では、入社時期に合わせて健康診断の実施計画を立てていますか?計画的な実施が、スムーズな入社手続きにつながります。

法定検査項目と実施方法の詳細

雇入れ時健康診断で実施すべき検査項目は、労働安全衛生規則第43条によって明確に定められています。これらの項目は、労働者の健康状態を多角的に評価するために設計されています。

必須の検査項目は以下の11項目です。

  • 既往歴および業務歴の調査
  • 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  • 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
  • 胸部X線検査
  • 血圧の測定
  • 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無)
  • 貧血検査(赤血球数、ヘモグロビン量)
  • 肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)
  • 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  • 血糖検査
  • 心電図検査

これらの項目は、生活習慣病のリスク評価や肺の異常の早期発見など、従業員の健康状態を包括的に把握するために設計されています。特に、胸部X線検査や血液検査は、潜在的な健康リスクを早期に発見するのに役立ちます。

実施方法については、企業によって異なりますが、一般的には以下の3つの方法があります。

  • 会社が指定する医療機関で一斉に受診する方法
  • 従業員が個別に医療機関を選んで受診する方法
  • 会社に医師を招いて社内で実施する方法

どの方法を選ぶにしても、費用は原則として会社が全額負担することになっています。これは、健康診断が会社の法的義務であるためです。

「健康診断の費用って誰が払うの?」と疑問に思ったことはありませんか?

実は、健康診断の費用は健康保険が適用されません。通常の診療であれば3割負担で済むところが、健康診断は全額自己負担となります。しかし、雇入れ時健康診断の場合は、会社が全額負担するのが原則です。

雇入れ時健康診断を実施しないリスクと罰則

「忙しいから」「コストがかかるから」といった理由で雇入れ時健康診断を実施しない企業も少なくありません。しかし、これは大きなリスクを伴う判断です。

雇入れ時健康診断を実施しない場合、労働安全衛生法違反として罰則の対象となります。具体的には、労働安全衛生法第120条に基づき、「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。

法的なリスクだけではありません。従業員の健康状態を把握していないことで、適切な業務配置ができず、健康に起因する労災事故や体調不良のリスクが高まる可能性も考えられます。

さらに、健康診断の不実施が原因で従業員の健康被害が生じた場合、会社は安全配慮義務違反に問われ、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。

企業イメージの低下も見逃せません。法令遵守を怠る企業として、従業員や社会からの信頼を失い、採用市場での評価が下がる可能性があります。優秀な人材の確保が難しくなるだけでなく、取引先との関係においても、コンプライアンスを重視する企業からは取引の見直しを求められるケースも考えられます。

健康診断の実施は、単なるコストではなく、企業と従業員の双方を守るための重要な投資と考えるべきではないでしょうか。

あなたの会社では、雇入れ時健康診断を確実に実施していますか?もし実施していないとしたら、今すぐ対応を検討すべき時かもしれません。

健康診断結果の取扱いと個人情報保護

雇入れ時健康診断を実施した後、その結果をどのように取り扱うべきか悩む担当者も多いでしょう。健康診断の結果は、従業員のプライバシーに関わる重要な個人情報です。適切な管理が求められます。

健康診断の結果については、以下の対応が法的に求められています。

  • 健康診断の結果を受診者全員に通知すること
  • 診断結果に基づき健康診断個人票を作成して5年間保存すること
  • 健康診断結果についての医師等からの意見聴取を行うこと
  • 健康診断実施後の措置(就業上の措置等)を講じること

特に注意すべきは、健康診断の結果は「要配慮個人情報」に該当するということです。個人情報保護法では、病歴、身体障害、健康診断結果などは特に配慮を要する情報として扱われ、その取得や第三者への提供には「あらかじめ本人の同意を得ること」が原則となっています。

健康診断の結果を見て、「この人は健康上の問題があるから採用を取り消そう」と安易に判断することはできません。採用内定により労働契約が成立している場合、健康診断で疾病が見つかったからといって、直ちに採用内定の取り消しが許されるわけではないのです。

健康障害が重篤で通常の業務に従事できない場合を除き、まずは勤務開始の延期、就業場所の変更や休職などの措置を検討する必要があります。特に、期間の定めのない労働契約(正社員)の場合、健康障害が一時的なものであれば、配慮が求められます。

健康診断結果のデータ管理も重要なポイントです。2025年1月からは健康診断結果報告等の電子申請が義務化されることもあり、今後ますますデータで管理する重要性が高まってきます。紙での保管からデータでの管理へと移行する企業も増えているようです。

派遣社員と契約社員の雇入れ時健康診断の特殊ケース

派遣社員や契約社員の雇入れ時健康診断については、特有の注意点があります。これらを正しく理解しておかないと、思わぬトラブルに発展する可能性があります。

まず、派遣社員の場合、一般健康診断(雇入れ時健康診断を含む)は派遣元の責任で実施することが労働者派遣法で定められています。派遣先企業は、派遣社員の健康診断実施状況を確認する義務はありますが、実施自体の責任は派遣元にあります。

一方、特殊健康診断(有害業務に従事する場合の健康診断)については、派遣先の責任で実施することになっています。これは、作業環境を管理しているのが派遣先だからです。

契約社員については、契約期間が1年以上の場合は雇入れ時健康診断の実施が必要です。ここで注意したいのは、「1年を超えない契約」と「1年の契約」は異なるということです。1年ちょうどの契約の場合は、雇入れ時健康診断の実施が必要となります。

また、契約更新の可能性がある場合も注意が必要です。たとえ初回の契約期間が1年未満であっても、更新により1年以上使用される予定がある場合は、雇入れ時健康診断を実施する必要があります。

派遣社員の健康診断と同一労働同一賃金の関係も見逃せないポイントです。派遣社員が健康診断を受診する時間に対する賃金支払いや、受診日の設定方法によっては、「同一労働同一賃金」の観点から問題となる可能性があります。

派遣元の内勤社員は勤務時間内に受診でき、派遣社員は年休・休日に受診しなければならない場合、この取り扱いは不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。2022年からは労働基準監督官の臨検時に「同一労働同一賃金」に関する情報収集が始まっており、違反と判断された場合は行政指導の対象となります。

雇入れ時健康診断の効率的な実施と管理のポイント

雇入れ時健康診断を効率的に実施し、適切に管理するためのポイントをご紹介します。これらを押さえることで、法令遵守と業務効率の両立が可能になります。

まず、健康診断の実施方法について検討しましょう。一般的には以下の3つの方法があります。

  • 会社指定の医療機関での一斉受診
  • 従業員個別の医療機関選択
  • 社内での実施(医師を招聘)

それぞれにメリット・デメリットがありますが、会社の規模や採用頻度、所在地などを考慮して最適な方法を選ぶことが重要です。例えば、定期的に多数の採用を行う企業であれば、特定の医療機関と契約を結び、一定の枠を確保しておくと効率的です。

健康診断結果の管理方法も重要なポイントです。2025年1月からは健康診断結果報告等の電子申請が義務化されることもあり、データでの管理が基本となります。健康診断結果をデータ化することで、以下のようなメリットがあります。

  • 保管スペースの削減
  • 検索・参照の容易さ
  • データ分析による健康管理の効率化
  • 情報共有の円滑化(本人同意の上で)

ただし、データ管理にあたっては、情報セキュリティ対策を徹底することが不可欠です。健康診断結果は要配慮個人情報に該当するため、アクセス制限や暗号化などの対策が必要です。

また、健康診断実施後のフォローも忘れてはなりません。健康診断で異常が見つかった場合は、産業医等の意見を聞いた上で、必要に応じて就業上の措置を講じる必要があります。これは法的義務であるとともに、従業員の健康を守るために重要なプロセスです。

効率的な実施と適切な管理のためには、社内の健康診断実施規程を整備し、担当者を明確にすることも有効です。規程には、実施時期、対象者、実施方法、結果の取扱い、フォロー体制などを明記しておくと良いでしょう。

まとめ:雇入れ時健康診断は企業と従業員を守る重要な制度

雇入れ時健康診断は、単なる法的義務ではなく、企業と従業員の双方を守るための重要な制度です。本記事で解説した内容を簡潔にまとめると、以下のようになります。

  • 雇入れ時健康診断は労働安全衛生法に基づく法的義務であり、すべての企業が対象
  • 正社員だけでなく、一定条件を満たすパート・アルバイトも対象となる
  • 1年契約の契約社員も実施が必要(1年未満ではない点に注意)
  • 法定の11項目の検査を実施し、費用は原則として会社負担
  • 実施しない場合は50万円以下の罰金のリスクがある
  • 健康診断結果は要配慮個人情報として適切に管理する必要がある
  • 2025年1月からは健康診断結果報告等の電子申請が義務化
  • 派遣社員の一般健康診断は派遣元の責任、特殊健康診断は派遣先の責任

健康診断の実施は、従業員の健康状態を把握し、適切な業務配置や健康管理を行うための第一歩です。これにより、労働災害や健康障害のリスクを低減し、生産性の向上にもつながります。

また、健康診断結果を適切に活用することで、従業員の健康増進や疾病の早期発見・早期治療にも貢献できます。これは、企業の社会的責任を果たすとともに、健康経営の観点からも重要なポイントです。

雇入れ時健康診断を適切に実施し、その結果を有効に活用することで、企業と従業員がともに健康で活力ある職場環境を築いていきましょう。

健康診断に関するご相談や、内科・消化器内科に関する健康上のお悩みがございましたら、ぜひ大阪消化器内科・内視鏡クリニック難波院にご相談ください。日本内視鏡学会認定の内視鏡専門医による質の高い医療サービスをご提供しています。

大阪消化器内科・内視鏡クリニック 難波院では、雇入れ時健康診断も実施しております。お気軽にお問い合わせください。

 

著者情報

理事長 石川 嶺

経歴

近畿大学医学部医学科卒業
和歌山県立医科大学臨床研修センター
名古屋セントラル病院(旧JR東海病院)消化器内科
近畿大学病院 消化器内科医局
石川消化器内科内視鏡クリニック開院